メグとセロン2

メグとセロン2 三三〇五年の夏休み<下>

著者・時雨沢恵一先生。挿絵・黒星紅白先生。同レーベルから出ている人気シリーズ「アリソン(全四巻)」「リリアとトレイズ(全6巻)」と同じ世界で語られる、新シリーズですね。
・登場人物
主人公、端正な顔と落ち着いた性格で女子生徒に人気が高く本人はメグに想いを寄せているが、なかなかメグとはお近づきになれずにいたセロン・マクスウェル。ヒロインの、スー・ベー・イル―――ベゼル・イルトア連合国―――出身で、コーラス部に所属する天然系だが正義感の強い女性、シュトラウスキー・メグミカ。セロンの親友で軍人の家系であり自身も軍人となる道を歩いているラリー・ヘップバーン。世界的に有名な音楽家スタインベック夫妻の娘で、ラリーの幼馴染、オーケストラ部に所属するナタリア・スタインベック。一見すると男子生徒なのか女子生徒なのか判断がつかない中世的な顔立ちを持つ、セロンと顔見知りの男子生徒、ニコラス・ブラウニング。ロクシェで1、2を争う大富豪の娘で”新聞部”部長の女子生徒ジェニー・ジョーンズ。清掃会社から来たと言って古い校舎の管理・修繕などをしているハインツ・ハートネット。他、同じ学院の生徒や教師など。
・シナリオ
ルックスも頭も良くて女子に大人気のセロン。可愛くおとなしそうで実は正義感あふれる天然系(?)のメグ。セロンの親友、金髪熱血漢のラリー。長身でメガネをかけたサバサバ女子のナタリア。美形長髪でちょっと皮肉屋のニック。たった一人の新聞部員、カメラを手放さないジェニー。―6人の個性豊かなメンバーによる、恋あり、友情あり、ミステリーあり、のドキドキハラハラワクワクドタバタ学園物語、第2巻!夏休み、演劇部の合宿に手伝いで参加した6人は、謎の人物(?)が潜んでいるらしい倉庫へと探検に出かける!謎の人物の正体は!?セロンの想いはメグに届くのか!?“三三〇五年の夏休み”完結編!巻末に、書き下ろし短編も特別収録。(7&YHPより抜粋。)
・感想
この巻は第1巻である作品の続編、上下巻構成の下巻に当たる作品ですね。
夏休みに入った上級学校の生徒であるセロン・マクスウェルは、意中の子―――シュトラウスキー・メグミカとの距離が少しでも近づけばと、演劇部の合宿の手伝いをすることにする。親友のラリー・ヘップバーンと2人で合宿の手伝いにきた彼らは、そこでラリーの昔の幼馴染のナタリア、演劇部の部員ニコラスことニック、新聞部のジェニーらなど自分達を含めて合計6人と親交を深めるが、翌日、ジェニーが撮った写真に写っていた『人がいない筈の倉庫の人影』に、一同騒然。これがどういうことなのか、と考えるセロンだったが人が残されているなら助けなければ!と意気込むメグミカの言葉を尊重し、一同はとりあえず件の倉庫に向かうが―――というのが、前巻までの大まかなあらすじ。
この下巻では、その件の倉庫に侵入してみて、その先にいる筈の人影を探してセロンたちがほんの小さな、『夏休みの冒険』をする、という様相を見せています。人がいない筈の倉庫に隠されていた謎の地下室を探索したり、謎の人影の正体を見たり、それらの出来事の黒幕とも遭遇したり、といったことを各人の細かな行動を簡素に、それでいて仔細に書く時雨沢先生風のあっさりしていながら的確な描写で追いかけていきます。
作品としては本当に小さな、ひとつの事件を6人組が偶然解決してしまう、という感じで『アリソン』シリーズなどにあったような歴史を揺るがす大発見に繋がる物語であるとか、『リリアとトレイズ』にあったような出自に秘密のある王子の大活劇的なアクションがあったりするわけではありませんが、6人組というこれまでに無い大所帯の主人公パーティーが、各自の技能を生かして彼らの前に立ち塞がる謎や困難と見える敵を相手にしたりするなどの、文字通りパーティープレイがこの作品の肝でしょうか。『アリソン』『リリアとトレイズ』が、基本的にはアリソンとウィル、リリアとトレイズというコンビの活躍だったのと比べると、この『メグとセロン』は6人全員がある時は2人で組み事に当たり、ある時は3人で、ある時は1人で、ある時は全員でと、固定された組み合わせの無い6人全員にスポットライトが当たるとして、多様性に富んだ作品と思えました。
しかし最後の結末は、ハッピーエンドに近いものとは言え、また『アリソン』『リリアとトレイズ』で見られたような、変則的な言い分ながら筋が通っているように見えるという、不思議な話術で煙に巻かれたような気がしました。それがこの作品、時雨沢先生の作品の醍醐味でもありますが…。
また、「セロンの夢」「ラリーとセロン」という、短編2作も収録されています。これは前者がセロンが夢を見ているという設定上で、上級学校に入学する事が決まってから入学を経て、メグミカに出会いそれまで理解できなかった『恋』という感情に戸惑いながら自己の内面と向き合う話で、後者はラリー視点の、ラリーとセロンの出会いの話、という所です。どちらもセロン、ラリーの内面に触れられる話であり以下続刊として作品シリーズが続くなら、どちらの短編もキャラクターの理解に一役買ってくれる作品ですね。