マブラヴ オルタネイティヴ トータル・イクリプス1

マブラヴ オルタネイティヴ トータル・イクリプス1 朧月の衛士

著者・吉宗鋼紀先生。挿絵・唯々月たすく先生。吉宗先生はPCゲームメーカー『アージュ』の代表で、『君が望む永遠』『マブラヴ』シリーズの企画原案を担当し『マブラヴ オルタネイティヴ』ではシナリオやサブキャラ、戦術機のデザインも手がけています。唯々月先生は、ゲーム雑誌で連載中である『トータル・イクリプス』でも原画・キャラクターデザイン・グラフィックを担当しています。
・登場人物
主人公は『XFJ計画』の為にアラスカ基地アルゴス試験小隊にテストパイロットとして派遣される、米軍所属の日米ハーフだが日本人嫌いのユウヤ・ブリッジス。『XFJ計画』の為、日本から派遣される日本側リーダーで、帝国近衛軍専用戦術機『武御雷』を愛機として持つタカムラ唯衣。ソ連所属のイーダル小隊に所属しイーニァと2人で『紅の姉妹』と呼ばれる衛士、複座型戦術機Su−37UBに乗るクリスカ・ビャーチェノワ。ソ連軍イーダル小隊所属で『紅の姉妹』のもう1人、クリスカと共に複座型戦術機Su−37UBに乗る大人しい見た目と言動に反して高い実力を持つイーニァ・シェスチナ。ユウヤと同じにアラスカ基地アルゴス試験小隊にメカニックとして配属されることになる、ユウヤを初め他方から信頼の厚いヴィセント・ローウェエル。ユウヤより先にアルゴス小隊に配属されていた先任衛士でネパール陸軍少尉、勇猛なグルカ族の血を継いで戦術機による近接戦が得意なF−15・ACTVに乗るタリサ・マナンダル。スウェーデン王国陸軍少尉で、アルゴス試験小隊のメンバー、冷静で的確な判断力と正確な射撃が得意なステラ・ブレーメル。イタリア共和国陸軍少尉でラテン系の明るいノリを見せるが戦術機ではベテラン衛士も唸らせる高機動制御を見せるヴァレリオ・ジアコーザ。
他、サブキャラクターとして『XFJ計画』に関連する人物としてフランク・ハイネマン。巌谷エイジ。『プロミネンス計画』の関係者、クラウス・ハルトウィック。アルゴス試験小隊の指揮官、イブラヒム・ドゥール。など
・シナリオ
テックジャイアンで連載中の人気作品がついに文庫化!
2001年1月。30年近くに及ぶ地球外生命体BETAとの戦いで、世界は滅亡の危機を迎えている。国内に多数のBETAを抱え苦境に立たされた日本帝国軍は、戦況を打開するため対BETA戦の要である人型兵器・戦術機の新型開発が急務となっていた。そんな状況下、日本帝国の命運を懸けた特殊任務が篁唯衣中尉へ下される――! 大人気PCゲーム『マブラヴオルタネィティヴ』からスピンアウトしたオリジナルストーリー、待望の第1巻登場!(7&YHPより抜粋。)
・感想
これはシナリオでも書かれている通り、PCゲーム『マブラヴ オルタネイティヴ』の、スピンアウト作品です。この作品は『マブラヴ オルタネイティヴ』の世界で登場する人型戦術戦闘機―――通称『戦術機』の開発に携わる人たちの中の一握りの研究開発チームの姿を書いた作品ですね。企画立案者と現場との軋轢、BETAという人類共通の敵に対抗する為になりふり構わず『力』の開発に取り組む研究開発チームの苦労、テストパイロットたちのすぐに変化が訪れる開発機体を前にしての戸惑いと結果を出さなければならない焦り、共同研究といってもやはり有るそれぞれの確執…それらによって想起する関係者の不仲。そういった、各人が何かしらの誇り、或いは信念を持っているが故に無くならない緊張感の中で『戦術機開発』に携わる人々の姿がここにありますね。
主人公はユウヤ・ブリッジス。日米ハーフで米国に所属する軍人です。彼がアラスカ基地アルゴス試験小隊に配属されるところから話は始まります。そしてそのアルゴス試験小隊で、ユウヤが新しい任務『XFJ計画のテストパイロット』として、先任小隊メンバーや日本人嫌いの彼にとって最悪の相手である日本帝国軍人で上官のタカムラ・唯衣との出会いと衝突などが綴られながら生きていく姿が書かれています。
この作品はかなり想像力―――引いては『情景をイメージ』する力を要求される作品だと思いましたね。ロボット物を扱った作品によくあることですが、ロボット物の作品はロボットの挙動やそれを操縦する人の様子が克明に描写されやすく、さらに専門的用語や作中で最初に規定されるその作品専用の言葉、といったもので説明文が長々となり結果、作品全体に助長な印象を受けやすくなります。これがスーパーロボット的な作品であれば『熱い展開』と呼ばれる勢いで説明無しで話を進めてしまい、しかしそれで結果的に爽快感に繋がったりもしますが、リアルロボット的な作品であれば終始理知的で理路整然とした話の展開が作品の雰囲気上求められ、そしてそれを外す事は出来ません。その為に読み手を選んだりする事にもなりますが、この作品はまさに上記のうちで『リアルロボット的』であり、原作のあるスピンオフ小説ということで、さらに読み手を選ぶ作品になってしまっていますね。
しかしながら、作品を理解しのめりこめれば、この『マブラヴ オルタネイティヴ トータル・イクリプス』はかなり面白い作品だと思います。原作主人公の白銀武やその仲間達が乗り、BETAと戦っていたあの戦術機たち―――不知火、吹雪、武御雷、F−15Eなどから繋がる戦術機が開発されるその裏話が読める、ということでファンには堪りませんし、ファンと言うほどではなくても『マブラヴ』の世界観で語られる話が好きだ、という人には十分以上に楽しめる作品だと思います。
この巻ではクリスカ、イーニァの『紅の姉妹』はまだ顔見せ程度の登場で、もっぱらユウヤが唯衣との関係で激突したり日本製戦術機・吹雪や不知火・弐型に当惑しそれを物にしようとする、ユウヤ個人のアルゴス試験小隊と言う新職場での初めの葛藤と苦労の様子が中心で書かれていました。そこから派生するだろう他の登場人物達との絡みは、第2巻以降に期待といったところでしたね。その辺りで日本人嫌いのユウヤがどう変わっていくのかとか、クリスカ、イーニァとユウヤはどう関わっていくのかなど気になりますね。