学校の階段8

学校の階段8 (ファミ通文庫)

学校の階段8 (ファミ通文庫)

学校の階段

著者・櫂末高彰先生。挿絵・甘福あまね先生による、ちょっと特異な部活動に青春と情熱を掛けることを選んだ学生たちが送る日々を書いた、学園青春グラフィティ作品の第8段です。
・登場人物
主人公の階段部平部員、生徒会長に当選した通称「缶バッチ」こと神庭幸弘、階段部部長で超ワガママッ子な「静かなる弾丸」の二つ名を持つ九重ゆうこ、階段部副部長で二つ名「必殺Vターン」を持ち部長・九重ゆうこのお目付け役の刈谷健吾、階段部メンバーに「黒翼の天使」天ヶ崎泉、「天才ラインメーカー」三枝宗司、幸弘と同じ1年で親友の「月光ダンシングステップ」井筒研。これら階段部メンバーに加えて幸弘の従姉妹四姉妹や、山上桔梗院の生徒、波佐間勝一。填島慎。水戸野凛。寺城。浅沢などが登場します。
・シナリオ
解き放て、宿命の呪縛――! 次期生徒会長に当選した幸宏は、引継ぎ前にかかわらずやる気絶頂期に突入!そして、天栗浜高校階段部も山上桔梗院との再試合が具体化し、対山上の練習に力を入れていた。波佐間との対戦に闘志を燃やす幸宏――と、そこに予想外の協力者が!?なんと本来敵である水戸野が、協力を申し出てきたのだ。羽佐間に必ず勝ってくれと言う水戸野の真意に戸惑う幸宏だったが……。今度の階段レースは階段部始まって以来のアウェー戦!ビバ青春の無駄足!話題沸騰の青春グラフィティ第8弾!!(7&YHPより抜粋。)
・感想
この巻は、前までの巻で広げられてきた風呂敷がようやく区切りがついてそれなりに畳まれる巻、というか。山上桔梗院の生徒たち―――波佐間勝一、水戸野凛といった人物たちと、天栗浜高校階段部の面々との対決といった様相を取っていたこれまでの話に決着がつきます。そこは主人公である神庭幸弘の主人公の面目躍如で、彼と山上桔梗院側の波佐間との一騎打ちは、アウェーである山上桔梗院を舞台にして縦横無尽に校舎を駆け、跳び、走り、飛び、さらに体捌きによる駆け引きまで出て、第1巻から見えていた幸弘の莫大な可能性が波佐間という強敵を前にしてこの巻でまた爆発した感じでした。そして活躍していたのは幸弘だけではなく、山上桔梗院との階段レースは3対3の形式でしたので、天栗浜高校側の神庭以外の代表である九重ゆうこと三枝宗司の2人も、共に山上桔梗院の相手―――寺城、浅沢の両名に元祖・階段ランナーの力量を見せていて、この巻は階段バトルの見所の多い巻でしたね。
バトルの見所もさることながら。この巻から生徒会長として活動を始める幸弘の動向にも注目でしょうか。副会長になった御神楽あやめの手伝いを受け、初めての生徒会長としての活動として各部活への視察を計画します。が、その実現に向けての壁―――現実的な案や、周囲の生徒会メンバーからの反対などを受けつつも幸弘が生徒会長としての初行動と言う事で影から井筒が手伝ってくれたりと、周りに支えられながら生徒会長としてやっていき始める幸弘というものが見られました。
しかし御神楽はあれですね…見事なまでにクーデレというかツンデレっぽくなっていきそうですね。今の所はそんな可能性があるかも、程度の幸弘との関わりですが、話の最後にある新生徒会による旧生徒会の為のパーティ。ここで波佐間とあやめの許婚の事を知った幸弘に、あやめが強い口調で否定する所など裏を勘ぐってしまいますよ。というかあやめもそうですが、三島さんとか従姉姉妹の希春、美冬などにも好意をもたれて4人にダンスタイムの相手を申し出られている幸弘は、やはり主人公なんだな、と再認識しますね。
そしてやはり筋肉は健在。今巻ではラストのオチで使われるだけですが、思い切りタイミングを計っていたとしか思えない登場には予定調和的でありながらやはり吹きます。学校の階段にはもはや無くてはならないファクターではないでしょうか。
最後に、これを忘れてはいけないでしょう。というか最初に書くべきだったかもしれませんが、この巻は波佐間勝一と言う馬渕の男が周囲から天ヶ崎への復讐を期待され、それに抗うべきか従うべきか迷う話が中心でした。その当事者である波佐間が、幸弘との階段レースを経てどのような結果を出すのか。彼を取り巻く呪縛に幸弘がどう関わっていくのか。そういった事がこの巻の最大の焦点ですね。
総じるとこの巻は、天馬グループと言う天ヶ崎の家の前身である組織の過去が因縁とかそういったものとして大きく関わっていて、ただ階段レースに青春をかけて走る少年少女たちを見守る、という話では終わりません。恨みとか憎悪とかのネガティブな感情が関わってくるだけに、あまり爽快な印象を受けないのが私の本当のところの感想です。しかしそういった暗い感情に巻かれながら走る波佐間を相手に、全てを知ることも出来る立場にいながらそれを知ろうとせずに階段レースで戦う幸弘には正々堂々と決着をつけようとする『光』を感じる作品でしたね。