都市シリーズ 電詞都市DT<上>

都市シリーズ 電詞都市デトロイト<上>

著者・川上稔先生。挿絵・さとやす(TENKY)先生。ロングヒットシリーズ・都市シリーズの第8の都市の話が書かれた作品です。川上先生は都市シリーズと呼ばれる作品群「風水都市 香港」「奏楽都市 OSAKA」「創雅都市 S.F」「矛盾都市 TOKYO」「閉鎖都市 巴里」「機巧都市 伯林シリーズ」や、その派生系ともいえる「終わりのクロニクル」シリーズなど、共通世界観での長期シリーズ作品が多いですね。さとやす先生はそのほぼ全てに挿絵として協力しています。既に2人で1人、的なイメージがありますね。
・登場人物
主人公で直情傾向ながら、自分の拳の有り方に悩みつつ優緒にセクシャルハラスメント的な意味でちょっかいを出す、煩悩に溢れ気味な悩める格闘家で師匠殺しのアルゴを追ってDTに犯罪者として都市入りする青江・正造。ヒロイン故に正造に色々とちょっかいを出され、トホホな感じを覚えつつも正造を信頼するDT管理者の1人アカラベスの養女でもある優緒・ナタス。青江や優緒を助けるDTの管理者『13亜神』の1人、オウガ・テライ。オウガの妻でDT管理者『13亜神』の1人、フーブリッキー・テライ。敵役で、青江の師匠、自身の師匠でもある小林・吽暁を殺害し現在は後述のオルタネートの言障を治すためにDTに潜入しているアルゴ・エバークエスト。吽暁の養女でアルゴに誘拐され自分の意思でもアルゴと共にいるが、言障という不治の病に侵されているオルタネート・小林。DT管理者の『13亜神』の1人、アーコン・エダムザ。DT管理者の『13亜神』の1人で現在DT管理者としては最大級の権限を持つアカラベス・チューブズリーブ。アルゴに協力している四管理長と呼ばれる四人組、エクセル・ラファイル。ミスト・ガブリール。メクトン。大刀・ウーリール。
・シナリオ
全ての物質が電詞情報として変換され、再構築された都市DT。そこはかつて大神を降誕に失敗し、一度記憶を封じられた都市である。日本政府の特殊部隊班長の青江は、重犯罪者アルゴを追い、自らも犯罪者という身分を偽装してDTに入市する。だが、DTは神の信託を降ろす預言塔BABELの起動や、封じられた記憶の公開を間近に控えていた。青江は、DTを治める十三亜神の一人であり、自分の後輩であった優緒と再会して捜査を進める。だが、アルゴは亜神の一人エダムザと共謀し、王城を占拠。過去DTを壊滅の危機に陥れた神の降臨を再び起こそうとしていた…。都市シリーズ最新作、第8の都市登場。(7&YHPより抜粋。)
・感想
この作品は都市シリーズと呼ばれる一群の、第7作目に当たる作品です。所謂ネット的世界を舞台にした、現実っぽい書き方―――その場の主役が目で見て感じた事、考えた事を書いていく様式と、ネット上での文字だけの書き方―――チャット的な文字による状況描写を中心とした書き方を入り混じらせて二種類の視点で話を追いかけていく様式で物語が書かれています。
格闘家、青江・正造が師匠殺しの仇、アルゴ・エバークエストを追いかけて電詞都市DT入りし、その先でかつて別れた恋人、優緒・ナタスと再会し、アルゴを追う内に優緒を中心に広がらんとしていく陰謀に正造が関わっていき、この巻ではその陰謀が広がっていく最中で続く、となっていますね。
この作品、先に書いた通りの二種類の話の伝え方があるのですが、そのそれぞれに味があって一粒で二度美味しい的な形になっています。しかし詰まる所それは描写が安定しない―――と言うかその不安定さを楽しむものであるのですが―――それを受け入れられないと、読むのが少々苦痛かもしれません。しかし作品そのものの魅力―――登場人物の味のあるキャラや会話のやりとりが面白く、物語の展開もここぞという見せ場がはっきりわかる作りで引き込みどころがハッキリしている―――は高く、二種類の書き方の文法に振り回され気味でもキッチリ楽しめる事は楽しめます。楽しんだ上で、作風を理解し自分のものにできるかどうかは別、ということで。
今巻は上巻ということで、まだまだ色々と明らかになっていない所…『最強』と『必殺』に関する青江の結論が出ていないことや、過去を失っている優緒がその過去に対してどんな形で接していくのか、オウガとフーブリッキーのテライ夫妻が下巻でどんな活躍を見せるのか、アルゴとオルタネートの2人は言障をどう克服しようとするのか、などなど明かされておらず気になる所は多いですが、下巻でこれらをどう書かれるのかがそれぞれ上巻でさわり程度だけ触れられていて、川上先生の伏線の張り方というか、期待のさせ方は上手だなぁ、と思いました。
川上先生の作品はまた、キャラクター同士の掛け合いが面白い事が特徴的ですね。日常的なシーンでは会話によるテンポの良い言葉の応酬が見ものですし、緊迫したシリアスなシーンでも、その一端では日常的な会話シーンと変わらないような言葉で一瞬で緊張感を吹き飛ばしつつも、それが逆に良い意味でのスパイスになっていてシリアスシーンに深みを出しており、と、川上先生の作品における『会話』は重要度が高いですね。
総じてこの作品は上巻であり、主人公の青江・正造はまだ全力で戦える状態でない―――戦闘制限があり、尚且つ自身に迷いが有る―――ため、敵の攻撃に後手後手に回り苦戦しっぱなしという印象がありました。しかしながらそれは逆に下巻での爽快感を期待させてくれる展開、ということでもあるかなと思いますね。