海賊彼女

海賊彼女 (集英社スーパーダッシュ文庫)

海賊彼女 (集英社スーパーダッシュ文庫)

海賊彼女

著者・鈴木一二三先生。挿絵・MAKOTO2号先生。第6回スーパーダッシュ文庫小説大賞で選考洩れになった作品を、大幅改稿の末に出版となった作品だそうです。挿絵のMAKOTO2号先生は漫画版「テイルズオブディスティニー2」や「レンタルマギカ FromSOLOMON」などを描かれています。
・登場人物
主人公で熱意はあるが現実を知らないTV製作アシスタントのバイク・カートライト。宇宙海賊ゴールドクイーン(以下GQ)の女サムライの異名を持つ日本刀を模した武器使い荒木シャスク。見た目は幼女だが射撃の腕は一級品のイヴ・ハーメルン。GQ女首領で元・地球軍人の海賊達の纏め役エミリア・バイ・ソフィン。勝気でサバけた性格の整備員兼操舵手のメグ・アリーナ・スパニッシュ。一見優しそうだが実は誰より冷静で冷酷な判断も下せるGQ副首領の倉敷彩花。カートライトの同僚で映像処理技術に関しては一流のアンブレラ・ホーキンス。典型的な自己中心男でカートライト、アンブレラ2人の上司で悩みの種、神楽坂章吾。
敵役としてはエミリアに執心のパイレーツ・コーポレーション課長、サノバビッチ・ヴェレック。二刀流の凄腕剣士でシャスクと激戦を繰り広げることになるゼロ。リード・エンタープライズの重役オーギュスト・ディスクラードなどです。
・シナリオ
TV制作会社のアシスタント・カートライトが、上司のミスの尻ぬぐいでドキュメンタリーを撮ることに。取材対象は女5人だけの宇宙海賊・GQ。何とか撮影許可を得るが、初めての宇宙船&取材でわからないことだらけ。さらにアクの強い女海賊と共に過ごすうち、地球にいた時には知らなかった事実が見えてきて…?泣く子も黙る女宇宙海賊に完全密着。果たして番組は完成するのか?コズミック・アクションファンタジー。全宇宙初公開。(7&YHPより抜粋。)
・感想
この作品は地球と木星でそれぞれ政府があるなど世界が宇宙世紀になっている世界で、ドキュメンタリー番組作成をしようとする主人公のカートライトが、撮影を許可する条件として上司の神楽坂から提示された条件『年若い女性ばかり』をクリアした海賊を見つけ出し、彼女達に密着して撮影を続けるうちに彼女達の状況や境遇、地球と火星や木星との格差、人的非道とそれを容認する社会など数々の現実を番組撮影を通じて知っていき、自分の未熟さや現実の無常さを思い知りながらそれでも海賊の彼女達の姿を撮影していく事で成長を遂げていく話、ですね。
かつて見たドキュメンタリー番組の影響で、「自分もあんな心に響く番組を撮りたい」という意図はあれど、現実を知らず熱意だけでドキュメンタリーを撮ろうとしていたカートライトが、無能な上司神楽坂に振り回されながらも海賊たち―――シャスクをはじめとするGQメンバーに触れ、撮影を通じて彼女たちから話を聞き、またシャスクに詰め寄られて返答できない姿や温室育ち的な発想で木星の人を怒らせるなどしている様子は、彼が本当に現場を知らない子供だったのだな、と知らされます。しかし彼がそんな撮影やシャスクたちと通じ合ううち、自分に出来る事、自分なら出来る事を探している時に木星の現実を知らせる大事なフィルムを神楽坂に駄目にされて本気で怒る姿は、彼が少しづつでも成長しているのが作品の中で見えましたね。この作品、そんな風に話の中でカートライトが凄い勢いで成長し現実を知って自分なりの覚悟を決めていくのを見ているのは、小気味が良いです。1人の人間が瞬く間に立派になっていくのを早回しのビデオカメラで見ている気分でした。
また、もう1つの印象としては、発展途上国と発展が軌道に乗り経済大国となった国とにも通じる、格差や傲慢による人と人との衝突を書いた作品だとも思いました。カートライトが遭遇する現実の壁。シャスクが通ってきた地獄の日々。イヴが生まれた理由。エミリアが地球軍から脱走して海賊になった理由。そういったほぼ全てがその格差や傲慢、衝突から発生したものであり、全ての物語もまた傲慢から起きた事件―――神楽坂のフィクション番組に触発され、現実に女性監禁事件を起こした―――というのが、人を人として見ない傲慢が原因なのだと思うと、今の現代に対する風刺的な意図も書かれていると思えますね。
栄える表の裏には搾取される影があり、肥え太る人がいればその分だけ痩せ細ることを強制される人もいる。世の中は搾取する者とされる者がいて、世界はそれを容認する。しかしそれに抗う者もいる―――。これは、海賊行為という形で世間に抗う女性達の姿を書いた作品だと思いました。