くろかの

くろかの (HJ文庫)

くろかの (HJ文庫)

くろかの

著者・夏緑先生。挿絵・さいとうつかさ先生。夏緑先生は第6回富士見ファンタジア小説大賞佳作受賞作『海賊船ガルフストリーム』でデビューし、現在は小説から漫画原作、科学読み物と多岐に渡り著作を持っておられます。小説の近作ではMF文庫Jの『風水学園』『ぷいぷい!』シリーズ、電撃文庫の『フォーチュン・クエスト』シリーズなどが有名でしょうか。挿絵のさいとうつかさ先生はイラスト、ゲーム原画、漫画から小説挿絵とこちらも幅広く活動されていますね。
・登場人物
主人公の科学部で科学が大好きな科学信奉者の阿寒望。ヒロインはオカルトの申し子的な魔女であり、実家のトランシルバニア魔法医科大学卒業の父が経営する病院で黒ナースを務める事もある闇暗魔夜。そして魔夜の使い魔で地獄の魔王の1人であるが猫の姿のブエル。
サブキャラクターは望、魔夜の同級生の愛川初菜。望むが所属する科学部の先輩である3人、有鳩一石。湯川波流素。星雲銀河。
他には狼男や宇宙人など、多彩な登場人物が出てきます。
・シナリオ
科学大好き高校生の阿寒望は、容姿端麗・文武両道のスーパー美少女、闇暗魔夜を科学部に誘おうと声をかけるが、なぜか現れたタコ型宇宙人に赤ちゃんにされてしまう。
なりゆきで魔夜の世話になることに。一緒にお風呂に入ったり添い寝したり……どうするどうなる共同生活!?(HJ文庫HPより抜粋。)
・感想
この作品は、科学とオカルトのかみ合うようで微妙にかみ合わない、そんな絶妙なバランスで繰り広げられていく物語の展開を楽しめる作品でしたね。妙に科学的、妙にオカルト的で物語が展開されると思えば真逆な方向性で話が進んだりと、展開の急変化にそのギャップが楽しめます。
夏緑先生の作品―――MF文庫Jの『ぷいぷい!』にも共通する先生の作風でしょうか。会話によるテンポの良い展開が目に付きます。その掛け合いが小気味よく進み、話の展開が突飛な方向へ進んでもその小気味良い掛け合いの延長と言う事で、トンデモ話ではなくあくまで会話の延長にある『物語』と思えます。その手腕は見事ですね。
話としては、オカルティック・サイエンス・エロコメディ、とでも言えば良いのでしょうか。科学の話とオカルトの話とを交互に、或いは同時に交えながら話し、その時々に、赤ん坊になった望を嬉々として世話する魔夜が見た目が赤ん坊の望を男として見ずに、裸の付き合いを強要したり羞恥プレイかと思うような展開を見せたりと、オカルトに、サイエンスに、そしてエロスに話が繰り広げられます。と言っても最後のは直接的な表現ではなく、コメディ的に進められるのでエロコメディ、ということです。
総じるとこの作品は複数の面を見せる作品、ですね。オカルト的に呪文を唱え魔王を召喚し狼男を相手にする事もあれば、科学的に『超ひも理論』とかが出ることもあれば、その両面―――オカルトで状況打破する為、科学的に理詰めで説き伏せる事もありと、オカルト、サイエンスの両面で活躍の場があり一言でどちら側の作品、とは言い難いです。ですが主人公の望が科学側であり、彼の視点で語られている話でもあるので『科学信奉者が魔術に出会って認めながらもその理不尽さに苦悩する』話というのが、この作品で一番見られる話でしょうかね。