くじびき勇者さま 6番札

くじびき勇者さま 6番札 誰が初代大統領よ!?

著者・清水文化先生。挿絵・牛木義隆先生によるお気楽気味なファンタジー世界でのくじびきで選択された勇者とその従者の珍道中物語、と言った感じでしょうか。清水先生の他著作は、富士見ファンタジア文庫からデビュー作「気象精霊記」シリーズ、「あんてぃ〜く」シリーズなるものを出しているようです。挿絵の牛木義隆先生は徳間デュアル文庫の「とくまでやる」シリーズやJIVE出版の「ゲヘナ リプレイ アザゼル・テンプテーション」シリーズなどの挿絵を描かれていますね。
・登場人物
主人公でヒロインの、料理が宮廷料理人級で様々な文学に長けた博識という以外はただの見習い修道女から、国を上げて行った『救世の勇者の選出』のくじびきによって『勇者の従者』となったメイベル。もう1人の主人公で、普通の、騎士団入りを目指して選抜くじ引きに何度も挑んでは当たりくじを引けずに落選していたが、『救世の勇者を選び出すくじ引き』で見事勇者のくじを引いた剣士ナバル。メインは基本この2人で。サブとしては、メイベルの親友で同じ見習い修道女のパセラ。騎兵隊長でメイベルが好きな貴族の騎士クラウ。パセラたちと同じ見習い修道女で貴族の娘のレジーナ。南アルテースの都市ラクスの市長、それからジェニフィ、キャロル、エミリオといったメイベルとナバルの世話係として派遣された正修道女/正修道士など。ドラゴン教団のブルーノ。マウンテン・ドラゴンのフェレラ。メルカトル夫妻とその家族、なども再登場です。他にもフェレラ以外のマウンテン・ドラゴンの数人(数匹?)も再登場してますね。
・シナリオ
休戦協定が結ばれ、内戦状態から脱した南アルテースの都市ラクスでは冬至祭が華やかに開催されていた。相変わらず技術革新の中心にいるメイベルは様々な発明によってさらにその名声を上げていた。南アルテースの平和の象徴的存在になったメイベルは、いつしか西アルテースの侵攻に対する切り札として期待されていくようになる。(7&YHPより抜粋。)
・感想
今巻は前巻ラストで書かれた西アルテースの、ナバルとメイベルを逆恨みで敵視するビーズマス卿が起こした侵略行為に対して、メイベルとナバルが奔走する…といった感じの巻ですね。とは言っても、実際にまたナバルやメイベルが旅に出る、といったものではありません。
休戦協定が結ばれて冬至祭が開催された都市ラクスを舞台に、様々な発明を繰り返し技術的革命を次々に起こすメイベル。メイベルはやがて西アルテースの侵攻に対して南アルテースの象徴として期待されるようになり、南アルテースが統一される際に初代大統領に就任することになる―――というのが、この巻の大まかな話。これからもわかるように、宮廷料理人→勇者の従者→救世の聖女と来て、メイベルはとうとう『南アルテース共和国初代大統領』にまでなってしまいます。凄い勢いでの出世と言うか、立場の変革ですね。しかしながらこの巻はそんなメイベルの激しい立場の変革に焦点を置きながら、彼女の女の子としての『可愛さ』がこれまでになく表現されていた巻でもあります。
メイベルとナバルが最初に旅立った帝国の中心都市・サクラスからのパセラの手紙によって、自分たちが狙われていたのがビーズマス卿の陰謀であった事を知り、ナバルから「護衛は必要なくなったな」と言われたメイベルが必死にナバルとの関係を繋ぎ止めようとしたり、フェレラたちドラゴンを相手に料理を渡したりして楽しげにしていたり、初代大統領への就任を要請されて戸惑いナバルに元気つけられたりと、いろいろな面でメイベルの可愛さが強調されていた巻でもありました。
しかしこの巻での最大の見所は、ナバルが瀕死の重傷を負う事でしょう。ビーズマス卿により放たれるメイベル暗殺の一団。これらの急襲を受け、メイベルを庇ったナバルは一時は脈拍の停止まで行く危険な状態になります。一命を取りとめはしますが、その事でメイベルは恋する女の子相応に取り乱しキャロルに叱咤される姿を晒したりします。この『ナバルの負傷』が、この巻におけるメイベルの可愛さの表現における最大の出来事でしたね。生き延びたナバルを前に泣いて取り乱す姿は、救世の聖女と呼ばれ博識で薀蓄好きな明るい女性が、ナバル・フェオールに恋する1人の普通の少女である事を再認識する出来事でした。
この巻でも書かれている、発展していく技術面での話をすると、この巻あたりからまた技術の革新/進歩に拍車がかかっていくような気がしましたね。コンクリートを用いた高層建築の登場。メイベルの発想によるトロッコに大砲を乗せる簡易戦車の登場。グライダー用ブースターに爆弾をつけて飛ばすミサイルの雛型の登場と、魔法と剣と性能の低い銃を使っていた第1巻辺りからすれば、飛躍的な登場機械の発展が見えて、軍事的要因による技術の進歩を快く思わない登場人物エミリオの懸念もわかるというものです。読者の立場からしてもこの勢いで進んでいく技術進歩は、作品の『行き止まり』が早く来そうで不安でもありましたね。
しかし、初代大統領に就任したメイベル。ビーズマス卿を相手に戦争が起きるのか…といった所で今巻は終わっていて、先が気になる事は間違いありません。共和国大統領であるメイベルと、王制の西アルテース公王のビーズマス卿という、対極的な立場の2人による戦争勃発がどんな方向に向かっていくのかなど、今後の展開もまた気になりますねー。