くじびき勇者さま 5番札

くじびき勇者さま 5番札 誰が守り神よ!?

著者・清水文化先生。挿絵・牛木義隆先生によるお気楽気味なファンタジー世界でのくじびきで選択された勇者とその従者の珍道中物語、と言った感じでしょうか。清水先生の他著作は、富士見ファンタジア文庫からデビュー作「気象精霊記」シリーズ、「あんてぃ〜く」シリーズなるものを出しているようです。挿絵の牛木義隆先生は徳間デュアル文庫の「とくまでやる」シリーズやJIVE出版の「ゲヘナ リプレイ アザゼル・テンプテーション」シリーズなどの挿絵を描かれていますね。
・登場人物
主人公でヒロインの、料理が宮廷料理人級で様々な文学に長けた博識という以外はただの見習い修道女から、国を上げて行った『救世の勇者の選出』のくじびきによって『勇者の従者』となったメイベル。もう1人の主人公で、普通の、騎士団入りを目指して選抜くじ引きに何度も挑んでは当たりくじを引けずに落選していたが、『救世の勇者を選び出すくじ引き』で見事勇者のくじを引いた剣士ナバル。メインは基本この2人で。サブとしては、メイベルの親友で同じ見習い修道女のパセラ。騎兵隊長でメイベルが好きな貴族の騎士クラウ。パセラたちと同じ見習い修道女で貴族の娘のレジーナ。
南アルテース地方を舞台とした今巻からは、南アルテースの都市ラクスの市長、それからジェニフィ、キャロル、エミリオといったメイベルとナバルの世話係として派遣された正修道女/正修道士など。また、ドラゴン教団の過激派として第1巻から出ていたブルーノが立場を変えて再登場したりマウンテン・ドラゴンのフェレラが再登場したりしてますね。
・シナリオ
ラクス教会を目指し旅を続けるナバルとメイベルを迎えたのは何と空を飛ぶ機械。南アルテースの都市ラクスは発明家の市長を中心に独自の発展をした技術の都だった。目新しい技術に目をキラキラさせるメイベルと空を飛ぶ機械の操縦に興味を示すナバル。ようやく落ち着いた日々を迎えた2人だが、その平穏は長くは続かないのだった。(7&YHPより抜粋。)
・感想
この巻からは新都市を舞台にして話が展開されていきますね。1〜3巻がドラゴンやドラゴン教団を相手に謎の病気の原因を探る探求の旅で、第4巻が西アルテースの王に逆恨み的に狙われる事になったメイベルとナバルが逃げ出した旅の途上を書いた逃亡の巻だとしたら、この5巻は逃亡の旅がひと段落ついて新しく腰を落ち着けられた都市での出来事を書いた新しい展開の巻ですね。
新都市・ラクスでの目新しい発見と、自分たちでは当然と思っていた技術がラクスでは普及していない現実に、自分の知る技術とラクスの技術による共同開発に取り組み日々新発明の連続のメイベル。ナバルはナバルで、メルカトル夫妻から習った帳簿管理の術をラクスの経理部で発揮して不正の発見をしたり、ラクスでは普及されているグライダーに関して興味を持ちその操縦を習うなど造詣を深めていくなど、メイベルもナバルも新都市に革新的な発見や発明を広げていく姿がこの巻では見られましたね。2人がもたらした技術進歩がこの1巻だけでラクスに凄まじい勢いで産業革命などを巻き起こしていました。そういった技術の発展を見ているのはそれだけでも面白かったですね。
しかしこの巻はそういった技術の革新が、産業的なものに使われるだけでなく、軍事にもすぐに転用されてしまうのであると言う悲しさを書いている話でもありました。前半は新都市ラクスで、メイベルやナバルがその新しい技術に楽しく触れるという微笑ましいものでしたが、後半からは一転して内戦に巻き込まれてそれらの技術が戦用に使われていて、メイベルやナバルもまた戦いに関与していってしまうといった感じで前半後半では印象が違う展開でしたね。ただ共通しているのは、新技術が前半後半のどちらでもメイベルやナバルの発想などで登場する事でしょうか。そして2人の発想により戦局が変わり、最終的には丸く収まるという展開は血生臭い泥沼の戦争に突入するところを見なくて済むとして、安心できるますね。
しかしながら。このシリーズは「くじびき勇者さま」のはずなのですが、この巻ではまるでくじびきが出てこなかったのはどうなのでしょうね?(苦笑