修道女エミリー

修道女エミリー―鉄球姫エミリー第二幕 (集英社スーパーダッシュ文庫)

修道女エミリー―鉄球姫エミリー第二幕 (集英社スーパーダッシュ文庫)

修道女エミリー 鉄球姫エミリー第二幕

著者・八薙玉造先生。挿絵・瀬之本久史先生。第6回スーパーダッシュ小説新人賞での『大賞』受賞作品の続編です。著者は受賞タイトルがデビュー作で今作が2作目。挿絵家はゲームの原画家でもあり、18禁のゲームなんかでいくつか原画を描いているようです。
・登場人物
主人公でもありヒロインでもあり『鉄球姫』の異名を持つ、ラゲーネン王国元第1王女で現在は自身の名を冠したエミリー修道院の院長をしているエミリー。ラゲーネン王国に代々仕える家の出の護衛騎士、もう1人の主人公グレン。グレン付きの召使いリカード。エミリー修道院で修道女をしている孤児のロッティ。ロッティ同様にエミリー修道院に在籍している貴族の家柄の修道女ヘーゼル。エミリーを守る護衛騎士であり前巻の戦いで唯一生き残ったセリーナ。
他にも敵の亡霊騎士やらグレンの兄や父やらが出てきますね。
・シナリオ
それは孤高の赤き花。若き護衛騎士グレンの師は、かつて、王女エミリーをそう評した。襲撃事件により家臣を失い、修道院に入ったエミリーの下に護衛として赴くことになったグレンは、憧れの王女に会えることに胸を躍らせていた。しかしエミリーは、その想像をことごとく凌駕する!不意討ち、暴言、セクハラ、鉄球!描いていたエミリー像が虚しく崩れ去る中、修道院を舞台に再び陰謀の矢が放たれた。迎え撃とうとするグレンだったが…!?第6回スーパーダッシュ新人賞大賞受賞の重装甲ファンタジー、第二幕開幕。(7&YHPより抜粋。)
・感想
今巻は、前巻よりもバイオレンスというか残酷な結末といったものが薄れており、前の巻に比べれば大衆向け、誰でも安心して読めるように生死を賭ける”濃さ”が薄れている感じでしたね。前巻が人死にが出まくった話だった為か、主人公視点がエミリーからグレンというキャラクターに変わった為か、はたまた別の要因かはわかりませんが、この巻では人死にといったものが必要最小限になっている印象ですね。最終的な犠牲も前の巻に比べてかなり少なくなっていましたし(それでも0ではないのがこの作品の作品たる所以かもしれません)。
基本は陰謀劇で、またも狙われたエミリー。そんな折に彼女を守るために来たと言うグレンをエミリーは認めようとしないながらも、亡霊騎士の襲撃を通じてセリーナ共々グレンを認めていく…といった展開で、ラストにはグレンが二者択一を迫られたりとこの巻はエミリーとグレンの交流の物語でもあります。そんな訳でこの巻は『修道女エミリー』と題が付けられていますが、実際のところ主人公はほとんどがグレンです。エミリーに振り回されるグレンの姿を、彼の視点で追体験していく―――そんな感じですね。エミリーは主人公でヒロインなのですが、今巻ではあくまでサブ的な主人公、といった感じです。要所では主人公の如く活躍しますが、基本はサブキャラクター、といった感じで。
全体的な印象は、小気味の良いテンポの会話と、美しく書かれた挿絵とは対照的なまでにイメージと違う話し方をするエミリーと、グレンとリカードの漫才の様な掛け合いなど、文章の部分はかなり面白おかしく読める一方で、戦闘シーンに入った時の瞬時の雰囲気の変化は見事で直前までの明るいギャグ的なノリの会話が一瞬で掻き消え、死と隣り合わせの緊張感溢れるシーンになるのは凄いと感じます。
前巻と比べると悲劇的な結末がなくなり、悲劇を扱っていた事で心ざわめかせる求心的な展開が無くなっています。ですが、ラストには前巻のような犠牲の上に成り立った苦い笑いではなく、心持ち爽やかな笑いが浮かべられる心地好い結末を迎えていますね。