ミスマルカ興国物語1

ミスマルカ興国物語〈1〉 (角川スニーカー文庫)

ミスマルカ興国物語〈1〉 (角川スニーカー文庫)

ミスマルカ興国物語?

著者・林トモアキ先生。挿絵・ともぞ先生。林トモアキ先生は同レーベルから「ばいおれんす☆まじかる」シリーズ、「お・り・が・み」シリーズ、「戦闘城塞マスラヲ」シリーズなどを出されていますね。
・登場人物
主人公でミスマルカ王国王太子のマヒロ・ユキルスニーク・エーデンファルト。ヒロインらしいがマヒロに遠慮も何も無く拳を繰り出したりする手の早いマヒロ付きの女近衛騎士、パリエル・カーライゼル。魔人と呼ばれる種族で強力な力を持ち知恵も達者な、マヒロの乳母を務めてもいた侍従隊長エーデルワイス。ミスマルカ王国の宰相で、今回の話でエーデルワイス同様にマヒロを助けるカイエン。
ミスマルカ王国に急襲をかけてくる敵役としては、グランマーセナル帝国の第3姫にして『戦姫』ルナス・ヴィクトーラ・マジスティア。
他に両方の部下とか名も無き民とかが出てきますかね。
・シナリオ
ミスマルカ王国の王子マヒロは、勉強も剣の訓練もせず、夜遊びばかりのぐーたら王子。いつも近衛騎士のパリエルに叱られてばかりいた。そのミスマルカに大陸制覇を狙う魔人帝国グランマーセナルの精鋭軍団が迫る。軍団を率いるのは帝国随一の戦姫ルナス。家臣たちが徹底抗戦を叫ぶなか、国を託されたマヒロは「話し合いで解決しない?」と腑抜けたことを言い始め…絶体絶命ミスマルカの運命は!?王道“系”ファンタジー堂々の開幕。(7&YHPより抜粋。)
・感想
文字通りの王道系ファンタジーですね。現在の文明が失われ、『旧文明』などと呼称される中で特異な能力を持つ『魔人』という種族や文字通りモンスターである『魔物』が存在する文明レベルが中世と現代がごっちゃになったような世界で、主人公であるヘタレ王太子のマヒロが父王の留守を任された時に自国に攻め入ってきた帝国軍の急襲部隊を相手に、あの手この手で策を弄して民を守ろうとする。この巻はそんな話です。ぐーたら王子にしか見えないマヒロに振り回される近衛騎士パリエルの苦悩振りや慌てように、笑えながらも同情し、マヒロが繰り広げる口先三寸の事態突破方法や、それまでの振る舞いからは意外な王族としてしっかりした一面などに驚きと、色々と楽しめましたね。
この作品の主人公、マヒロ王太子は基本的には『無能な人』です。剣の稽古は受けない。勉強はしない。城を抜け出しては城下に遊びに行く―――そんな典型的な遊び人。しかし、有事の際―――今巻で起きた騒動の際には、率先して敵軍の位置を探りに動き、罠を考案し、策を弄してルナス姫たちを足止めをし、最後は駆け引きで勝ちを収めてしまいます。そんな、『普段無能に見える人が実は…』というお約束な展開が小気味良く繰り広げられますが、お約束の分、御都合主義的にも見えてしまいますね。マヒロとパリエルの縁なども、恐らくそうだろうなと思ったらやはりそうだったか、といった感じですので。そういった『予測できる関係/展開』をそのまま受け入れて楽しめる人でなければ、この作品は楽しめないかもしれませんね。
しかしこの巻のラスト、マヒロとルナスとの玉座での対話は中々でした。罠に嵌めたのはどちらなのか。後ろが無いのはどちらなのか。切羽詰ったその時にイニシアチブを握っているのはどちらなのか―――そんな、緊迫感溢れる対峙は見応えがあります。
総じてこの巻はマヒロ王子が自分にできること―――口先だけでの戦争の決着、或いは回避が可能である事に気がつく、といった様相ですね。今後の展開でこの口先をマヒロがどう扱っていくのか、そこが気になるところですね。