レジンキャストミルク6

レジンキャストミルク

著者・藤原祐先生。挿絵・椋本夏夜先生によるほのぼの×ダークな学園アクションもの、そのシリーズ第7作目です。5と6の間に番外編短編集の「れじみる。」がありますので6なのに7作目なのですねー。
『虚軸』と呼ばれる世界と契約して、現実世界=実軸にその力を留める役割『固定剤』となった主人公や、その周りの人たちが、同様に虚軸の力を使ってくる敵との虚軸の能力バトルが繰り広げられる学園能力バトルアクションものです。
・登場人物
その場で武器を作れ、さらに戦闘中でも相手の手管や性質、能力などを解析して状況に応じた的確な武器を作れる虚軸「全一(オール・イン・ワン)」の固定剤・主人公の城島晶。そしてその虚軸「全一」であるヒロインの城島硝子、サブキャストは無数の子猫の群体で一己を為す特性を持つ虚軸「有識分体(分裂病)」とその固定剤たる柿原里緒、未来の可能性に干渉し一時的に対象への影響を巻き戻す事のできる虚軸「アンノウン(ゆらゆら)」とその固定剤たる佐伯ネア、精神に干渉して暗示的な能力を発揮する虚軸「目覚まし時計(ハラハラ時計)」とその固定剤たる速見殊子、髪を媒体に発現し平面を飛び越える能力を持ち、あらゆる物を切り裂く力を持つ虚軸「壊れた万華鏡(ディレイドカレイド)」とその固定剤たる舞鶴蜜。主人公側、能力者はこんな感じで、他に一般人として晶の幼馴染の森町芹菜や敷戸良司、硝子の友人たちの姫島姫、直川君子、皆春八重、などが出てきますか。
敵側は晶の父で全ての元凶、城島樹とその妻で晶の母でもあるが今は機会の体となった城島鏡。そして自我を持つ虚軸であり樹が登場するまで黒幕だと思われていた「無限回廊(エターナル・アイドル)」。さらに前巻に続いてのサブ敵とでも言うべき存在として、今巻も引き続いて登場の失った妹を求める虚軸憑きの津久見奏。
基本、この面々による虚軸の力を使った能力バトル、といった感じですね。
・シナリオ
今巻は前巻までの続きで、前巻で日常を捨て非日常―――硝子と共に在り続け、全ての元凶だった樹を倒す事を晶が決心してからの話として続きますね。日常の象徴的存在たる幼馴染の森町芹菜と完全に決別し、硝子の力を完全に引き出し虚界渦(アンダーゲート)を開く力を得た晶。その代償に、晶の真実を知り茫然自失となった芹菜と、そんな晶を危険視して晶から芹菜を引き剥がす為に自身も虚軸を見につけ敵に回った敷戸良司。連れ去られた芹菜の安否は。そして樹たちの真の目的は? 芹菜が良司と無限回廊たちに連れ去られたまま、日常は復帰する。何食わぬ顔で登校してくる津久見たちを相手に、偽りの日常を演じる事になる晶や硝子たち。
そんな中、津久見奏が動き出す。近くの公園で会おうじゃないか、と持ちかけてきた奏の提案に、警戒しながら応じる晶と硝子。そこには約束を違える事無く、城島樹と城島鏡が―――父と母が、津久見を従えて現れていた。一方その頃、別行動を取っていた無限回廊の前には里緒が彼を晶たちの元へ行かせまいとして立ちはだかっていた。戦闘を始める無限回廊と有識分体。そして僅かな親子の対面の後、津久見と晶たちは戦う事になる。終盤、殊子が晶を助けに増援として来るが、樹と鏡の実力の程がわからない劣勢のまま津久見と戦う晶たちの元へ、再度助っ人がやってくる。その場にいない人―――舞鶴蜜だと思っていた晶の前に現れたのは、暗く陰気ですぐ自殺他殺夢想に走るダークな保険医・佐伯ネアだった。戦いに向くとは思えない性格の彼女だが、樹の前に立ち、言う―――「くすくす……虚界渦を開放するわ」と。彼女の虚界渦<運命調節用多次元干渉体(パラドシカル・パラドクス)>が発動する時、何が起きるか―――!? といったところで。
・感想
今巻は佐伯ネアという謎の保険医でしかなかった女性がその本性を見せる巻、でもありますね。同時に何故彼女が晶に協力していたのか、その真意の一端もまた見られる巻でもあり、と。
それとは別に日常のシーン―――いわゆる「ほのぼの」に当たる部分は、晶が硝子を恋人として認めた結果、次の次元でのほのぼのさ、といった感じです。第三者からの囃し立て、それに対するそれぞれの対応。2人だけの時には家族として付き合った長さと虚軸と固定剤という関係からくる普通より数歩先に進んだ信頼関係が見られました。
そして非日常―――虚軸と虚軸の対決は、いよいよ苛烈になってきた、という印象です。
互いに虚界渦を開放しての戦いが通常になってきていて戦略的な展開が多いです。要は相手の正体を知りながら、こちらの虚界渦の正体を知らせていない。その状況になった方が勝っている、と。最初の一回だけ一撃で相手を倒せるが、一回使ったら以後はその確実性が失われ強力な攻撃でしかなくなる―――そんな、いかに生き延びて相手より後に自分の手札を晒すか、といった駆け引き的な戦いが終始繰り広げられていましたね。
そして樹と鏡が、今まで何をしていたのか。これから何をするつもりなのか―――そんなことを徐々に明かしながら、敵も味方も被害を出しながら次巻に続く、といった感じでした。
終末に向かって少しづつ崩壊していく敵と味方―――そんな悲壮感の、その前兆が起きる巻。そんな感想でしたね。