モノケロスの魔杖は穿つ

モノケロスの魔杖は穿つ (MF文庫J)

モノケロスの魔杖は穿つ (MF文庫J)

モノケロスの魔杖は穿つ

著者は伊都工平先生、挿絵は巳島先生です。
伊都先生は他作品として「天槍のバシレイス」「第61魔法分隊シリーズ」などを電撃文庫で著されたそうですね。
・登場人物
主人公らしく巻き込まれ体質で首突っ込み性質の立木ヒロ。ヒロインで魔女な美少女真名辺麻奈。サブキャラクターたちは風紀委員の長川律を準主役に、ヒロの姉の霜夜。
敵役はちょっと色々で、テンガロンハットの男や、まったく同じ顔の尖兵たち、果ては「煙立つ鏡」など、バラエティに富んでいます。
・シナリオ
基本的には巻き込まれ型のスタートです。普通の学生をしていた立木ヒロは、ある日、隣のクラスで美少女な真名辺麻奈がテンガロンハットを被った怪しい男に襲われているところに偶然遭遇します。助けに入ろうとしたヒロの目の前で、しかし麻奈は『魔術』を使ってテンガロンハット男を倒してしまう。それから麻奈のことに興味を惹かれたヒロは、麻奈が所属する地域研究部などにも顔を出し始め、少しだけ麻奈と交流を深めます。だがそんなある日、ヒロが何者かに狙われ始めます。義理や貸し借りといった責任感からヒロに手助けをする麻奈は、しかし最終的にヒロを狙う者―――『煙立つ鏡』を相手に窮地に立たされ、麻奈は勝利の為にヒロが持っていた『冠』という特性で魔術的な力を増強できる概念上の『王国』を建国してしまいます。風紀委員で麻奈の人付き合いの悪さを憂いていた正義の人・長川律を巻き込み『王国』の結成にこぎつける麻奈。かくして急造の『王国』に所属する3人と『煙立つ鏡』との戦いは互角となる。その決着は…? といった感じでしょうか。
・感想
この作品、上記シナリオで書いた以外にも色々と伏線とか解決されない謎が多いですね。典型的な、数冊先の刊行まで見越して展開しているタイプでした。
ヒロの姉、霜夜の不可解な言動と挙動。ヒロが見る夢の少女の正体。長川律が正義に固執する理由。麻奈が魔女をしている訳。そしてヒロが『冠』を持つ理由。など、細かいところでハッキリしない部分が多い作品でした。ややこしい、とも言えるかもしれません。
ですがそれを置いておいても、キャラクターの魅力と戦闘などにおける演出の独自性が光っている作品でしたね。それぞれがそれぞれの過去と目標を持っていることが曖昧な部分がありながらもきっちりしていて、その為キャラクターの言動に一貫性があります。まぁその辺りは続刊を読んでから改めて読み返して思ったことだったりもするんですが。演出の独自性というのは魔術の詠唱などが「英語+日本語」で書かれていて、さらにそこにタロットの要素が混じっているのでイメージが掴みやすい、という演出がされているということです。この「タロット」が、何を目的とした魔術を使おうとしているのか、を推理しながら楽しめるという点で面白いやり方だなと思いましたよ。
総じれば、ラストは御都合主義な主人公パワーアップでライトノベルにありがちなハッピー・エンドでの一旦の幕でしたので王道的過ぎる展開にややの物足りなさも感じるかもしれませんが、破綻の無い設定と比較的わかりやすい描写は読みやすい部類のライトノベルになるのではないでしょうか。そして後々に繋がる謎が残ったままと言う事で今後への期待も出来ると言う事で、現代ファンタジーとして今後の展開が気になる一冊では、と思います。