ウェディング・ドレスに紅いバラ

ウェディング・ドレスに紅いバラ

著者・田中芳樹先生。挿絵・小林立先生による新シリーズの吸血鬼アクションもので、同時発売として「夜空の双子座に紅いバラ」が出ています。
この作品、何に驚くと言えばその構成と登場人物、そして設定が実にいつの時代でも受け入れられやすい設定だ、と言う事でしょうね。
基本は主人公なヒロインとそのサポート役の先輩。所属する深紅の薔薇結社…CRS(クリムゾン・ローズ・ソサエティ)があって、敵対勢力がある。話はその結社と敵対勢力との戦いがメインで、色々と条件付けで様々な話の広がりを見せていく。そして作者はそれで変に奇をてらったりせず、基本に忠実ながらちょっとした驚き、意表をつく構成で読者を楽しませる…と、話としての作りも見事でした。
しかもまた驚く事にこれはほとんどが約20年前に書かれた作品だ、と言う事。つまり「ウェディング・ドレスに紅いバラ」は復刊作品なんです。それでもほとんど当時そのままで載せても、違和感の無い構成…当時の時事ネタや変な流行をつぎ込んだりしていない、純正の「吸血鬼アクション」分類の作品ということで、とても完成されていたと言う事ですね。
作品内容に触れますと、短編2作と長編1作によって構成されています。
表題作でもあり、紅いバラシリーズの第1作目でもある「ウェディング・ドレスに紅いバラ」。初めの1作ということで基本的な舞台説明と登場人物として、メインキーワードである『吸血鬼』についてと主人公にしてヒロインの花村雅香とそのコーチ役の緑川淳司の紹介。簡潔に、だけどキッチリと説明すべきところは説明して済ませて、本題スタートという感じでした。作品としての目を引く舞台衣装である「ウェディング・ドレス」でマシンガンを構えての丁々発止は、掴みは上々、と言うところでしょうか。インパクトは抜群でした。
続いての「星降る夜にダンシング」。CRSも一枚岩ではないと言う、当たり前の事を再確認しながら吸血鬼と言う存在の不安定さ危険さ、異端が出た場合のさらなる危険性を確認。
そして最後の「ブラッディ・ティーを一杯」。吸血鬼が吸血鬼たる所以である「吸血鬼ウィルス」。それによって生まれる前2作で説明も含めて為された「後天性吸血鬼」の大量発生の危機。東京全土を巻き込む一大事に対してCRSとして雅香と淳司、そして淳司の伯父であるCRS日本支部長の3人が挑む。その結末は?といったところで。長編は短編に比べて規模が大きな話といった感じです。短編が後天性吸血鬼個人VS雅香を初めとするCRS数人、といった様相だったのが、一気に東京全土を襲うドブネズミとか、政治家が裏で結託して作った互助組織が相手だ、とかになって話の規模が大きく膨らんでますね。その分前2作との差がハッキリしていてクライマックス、といった感が強かったです。
総評して、この作品は「約20年前に始まった作品とは思えない見事さ」でしょうか。
今と言う時代に出ても遜色無く受け入れられ、展開していこうとしている姿は、この作品を何とか再刊したいと粘った編集長の作品を見る目の確かさにも納得させられます。
能天気な元気娘吸血鬼と、苦労性の中間管理職的先輩吸血鬼、そんなふたりの活躍はまだ始まったばかり。新シリーズ化ということで同時発売された「夜空の双子座に紅いバラ」でも見られるようで、20年越しの復活、と言う感じでなんとも先が楽しみですね。