鬼切り夜鳥子3

鬼切り夜鳥子3 みちのく血煙慕情 (ファミ通文庫)

鬼切り夜鳥子3 みちのく血煙慕情 (ファミ通文庫)

鬼切り夜鳥子3 みちのく血煙慕情

著者・桝田省治先生。挿絵・佐嶋真実先生による微エログロ+伝記アクション(カバー裏より表現抜粋)のシリーズ第3段です。今回もちょっとしたおまけと言うか、作品内容でわからないかもしれないところがカバーやらで説明されていて親切設計です。(笑
舞台は800年程前。前1、2作の現代編でのヒロイン、桂木駒子に宿った過去の人で『式神使い』である夜鳥子。その夜鳥子が普通に生きていた時代。夜鳥子がこれまた1、2作目で主人公であった久遠久<キュウ、Q>の前世らしき求道坊と出会い、やがて一緒に旅をして別れるまでの姿が書かれています。
出会い、互いを理解し、互いに想いあうようになり、やがて訪れる別れ。その一連が、ひとつの旅の始まりから終わりまでに、夜鳥子が持つ葛城家や過去の因縁からくるしがらみや求道坊が抱える様々な厄介ごと、使命を交えて書かれている、と。
夜鳥子と求道坊が出会って1つの旅が始まり、終わるまでが一冊という巻に纏めれらているだけあって、展開は意外と早い感じがします。ですが夜鳥子が求道坊に惹かれる理由や事態が起きた時に明確に書かれているので、展開の速さの割にその内容に展開の早い時独特の『薄さ』のような物はあまり感じませんでした。書くべき事を書いている。そういった感じで、著者の力量が出ていますね。ですが描写そのものは、ライトノベルである作品としては少々細やか過ぎるくらいだったかもしれないとも感じました。
夜鳥子の失われつつあった人間としての気持ち。それを、全てを抱え込んででも何とかしようとあがくまさに「人間」な求道坊が取り戻させていく。長い時間と戦いが磨耗させた夜鳥子の心を取り戻させるくらいに人間臭い求道坊の有り方は、見た目は頼りないほどに柔軟。だが、その中には一本の芯が入った『漢』としての心があり、普通に憧れますね。こういった気遣いと性根を持つ人間でありたい、と思えるような。
また右一文字と左一文字誕生秘話。鬼切、蜘蛛切がありつつも別の刀として現れたその刀がどんな理由で作られ夜鳥子が手にするに至ったのか。求道坊の願いによる夜鳥子の心情の変化からくるその両刀の取得までは、納得のものです。仙人に作ってもらった刀、というのは少しばかり御都合主義的な感じが無くも無いですが、そも妖怪―――<鬼>との戦いがメインのこの作品。仙人くらいいても不思議ではないと読んでいる間にスルッと納得してしまっていましたが。(笑
総評して、この作品は1つの悲劇を書いています。ですが、その中にある夜鳥子が求道坊を、求道坊が夜鳥子を想いあう気持ちが、一組の恋人たちの悲劇を、嘆きだけの作品から読み終わった後に感じるもののある「悲劇恋慕譚」として昇華しています。悲劇は悲劇ゆえにその中にある気持ちが輝き読む者を魅了します。この作品はそんな作品のひとつかと。


―――平安時代。人知れず戦う者達がいた。人のために鬼を使って戦い、己の為に刃を持って戦い、しかしやがて人によって追われ、人の為に討たれた退魔の人。最後は赤子を護る為に戦った彼女の壮絶な人生とその最後。
その一端。想い人と出会い、人生で最高に輝いた時、その輝きが終わるまでが、この作品で読めると思います―――。