人類は衰退しました

人類は衰退しました (ガガガ文庫)

人類は衰退しました (ガガガ文庫)

人類は衰退しました

著者・田中ロミオ先生、挿絵・山崎透先生による………何と言ったら良いのでしょう?不思議生物観察記録風読み物?でしょうか…
著者の田中ロミオ先生が、知る人ぞ知る有名なシナリオライターの方で、名前そのままで一般誌にも出てきていたので一気に購入意欲が湧いて購入した物なんですけど。
物語としては、人類はかつて繁栄し、そして種の限界を迎えて衰退して、既に地球上に殆どその文明のみならず絶対数すら減少した状態でただ滅んでいく種として書かれている。そんな中で新人類とも言うべき『妖精さん』が現れ、地球上では現在『滅び行く種=旧人類=人間』と、『新に発祥した種=新人類=妖精さん』という形になっている。そんな生態系になっている世界で、主人公である、数少ない若い旧人類であり妖精さんとの間に立って関係構築をすると言う職業「調停官」として就任した娘さんの視点で、妖精さんとの交流を描く形で話は進んでいきます。
今巻で書かれているのは、調停官の娘さんが初めて妖精さんとふれあい、妖精さんの技術や知識、行動力と妖精さんと人間の感覚の違いに翻弄される様子と、人の模倣を好む妖精さんが自分たちで作り出したペーパークラフトの恐竜などの擬似生物に狩猟採集民族の真似事を初め、その果てにある1つの生体形の確立の様子を書いています。
この作品はかなり独特の世界観で書かれていますね。しかしその書き方がとても絶妙なバランスで無理無く書かれていて、気がつけばその世界観を受け入れて読んでいる自分がいます。
新人類・妖精さん旧人類・人間。といった特異な形の世界観で始まり、そこから始まる調停官の娘さんによる妖精さん観察ツアー。愛らしくも何処か不思議めいていて、深い魅力を見せてくれる妖精さん。それをお送りする調停官の娘さんは、お菓子作りが好きで見た目真相の令嬢だけど実は人付き合いが超苦手でどもるはきょどるは。さらに肉体労働が大嫌いで何とか楽な仕事をしようとしながらも意味のある仕事がしたいという、とてつもなく人間臭い我侭さん。だけど、人間臭さを感じさせられるそこが彼女の魅力となっていて、その言動は聞いているだけでも楽しいと言うもの。特に祖父との会話はテンポの良さもあり、一見の価値有りかと。
またそれだけでなく、学術的な知識としての生体系の基礎とかがさり気なく入ってくる構成も見事でしたね。妖精さんたちの行動から起きた出来事がそのまま生態系の進化をなぞる形になっていて、物語の筋道を理解する=生態系の発展順を理解できる。みたいになっていて、あとがきに「児童文学として扱ってもらえるような作品にしたかった」と書かれているように、キャラクター間の会話を抜いて考えれば、そのまま生態系に関する基礎知識書にもなるなぁ、と思えました。
総評して、この作品は先にも書いたように「不思議生態系観察記録。ただし読み物風」とでも言えるような、わからないことを知っていく過程を楽しむという本と言えるかと。
妖精さん』というまったく未開の新生命体を前に、調停官の娘さんが色々と考えながら、時に起こる事実に流されるままに理解を深めていく。読者はそんな彼女と一緒になって『妖精さん』という新生命体を知っていく過程を楽しめる。そんな本かなぁ、と。
しかしながら、この作品は色々と捉え方ひとつで読み解きできる意味も変わる作品でもあるかも、とも思えました。
学術的な読み物としても見え、しかし衰退した人類が新生命体に取って代わられる過程の一面を抜き出しているようにも見え、かと思えばある調停官による不思議な生命体の観察記録としても見え、と思えば生命体の連鎖の物語をダイジェスティブに書いているようにも見え、と。まさに読む人によって千差万別に捉えられるのではないか、と。
そう言った意味で、田中ロミオ先生はまた1つ面白い作品を出したなぁと思いました。
続編が続けられる終わり方でしたので、できればもう少し読みたいとも思いました。それくらい、この作品はなんだか購読意欲をそそられる作品でしたー。