学園カゲキ!

学園カゲキ! (ガガガ文庫 や 1-1)

学園カゲキ! (ガガガ文庫 や 1-1)

学園カゲキ!

著者・山川進先生。挿絵・よし☆ヲ先生による新創刊レーベル「ガガガ文庫」の第1段発刊分の一角です。
設定は、「日本一のタレント養成高校・歌劇学園」に、出世欲も無く成り上がり精神も何も無い普通の一般人、会澤巧海が入学して突拍子も無い行事ごとや日常満載の歌劇学園での生活を描く、というところかと。ただし、後半からは一気にスピーディな展開になり、ラブコメ要素やコメの無い純粋なラブ要素が入りながらいきなりクライマックスに向かって突き進んでいきます。
登場人物は大まかに分けて4パターン。主人公の巧海とヒロインの橘九月、それから2人の周りを取り巻く人として、巧海の友人の加賀雅也や先輩の姫儀千里、クラスメートの唐木亘、担任の有坂古都乃。そしてそれら以外、といった感じで、基本的に巧海を中心に九月との掛け合いや雅也との会話、千里との出会いなどで話は進んでいきます。
ですが、先にも書きましたが前半の進み具合と中盤を越えた後の進み具合のスピードに凄い差がありますね。新入生として歌劇学園に入り、学園の事を少しづつ知りながら雅也や九月と親睦を深めていき、千里とも出会ったと思ったら―――一機に怒涛の展開に突入。あれよあれよと話が進み、あっという間にクライマックス→大団円。といった感じでして、少しばかり尺が短いというか…全体的にラストに行くに連れて尺が足りなくなってる?といった印象でした。
主人公が自分で気がついていない才能に関して色々と読者には理解できるように伏線なんかが張ってあって、その辺りは巧いと素直に思いましたが、キャラクター間での心情的な変化というのがどうにも掴みづらい…と言うと良いのでしょうか。反目しあっていた巧海と九月が物語全体の期間である1年の間に仲良くなっていったというのは時間的な経過からも理解はできるのですが、そのきっかけとなる出来事…ゲーム風に言うなら「イベント」が起きたタイミングがかなりダイジェスティブに途切れ途切れに書かれている感じで、連続性を若干覚えづらく。結果的に、「ラストになったら急に仲良くなってるな、こいつら」みたいな印象を自分が覚えていたのが、私としては未消化感でしたね。
ですが個人的な話ですが、エピドーグの引きは個人的に好きなタイプで思わぬ好印象。主人公たちの話を聞いた第3者が、それをきっかけに自分の道を決める、という形での締め。こういった未来的に繋がっていく系のラストは結構好きなんですよー。
新創刊レーベル「ガガガ文庫」。その第1期刊行分としては未熟っぽい点も感じましたが、キッチリ終わらせて1つの完結した作品として発表されているのは好評価できると思います。変に「続く」っぽくして、その後まったく2巻とか出ないのより遥かにね…
総評して、学園カゲキ!は「舞台の表と裏に立つ少女の苦悩と、何も知らないでいた少年が真実を知った後の決断」に関しての本、でしょうか。
知らない主人公と、知っているヒロイン。その立場の違いが2人の関係を擦れ違いや罪悪感を生み、そこから起こす行動が登場人物たちに深いキャラクター性を与えていますね。