小さな国の救世主4

小さな国の救世主4 シャカリキ勇者の巻

「雑貨屋」を自称される鷹見一幸先生の作品です。先生の他著作はスニーカー文庫に「でたまか」シリーズ、電撃文庫では「時空のクロス・ロード」シリーズなどがありますね。
1〜3巻のあらすじとしては、アジアのとある国、セリカスタンへ旅行に出かけた主人公の天山龍也は、しかし現地で詐欺に会い金品からバッグから中に入っていたパスポートやらノートパソコンやらまでを盗まれてしまう。
途方に暮れ、何も無い平野をさすらっていた龍也はそこでキンリ族の姫巫女リューカ姫と、その護衛サラサに助けられます。
リューカ、サラサに招かれキンリ族の村で日本へ帰る方法を探すことになった達也だったが、その後、キンリ族が巻き込まれている内乱にも巻き込まれることになります。だがそこでちょっとしたひらめきやアイデアを使い、運も手伝って龍也は何とかかんとかと切り抜けていきます。
やがて、被っていた帽子の飾りから龍也は「軍師シマオオカミ」と呼ばれるようになり、最後にはセリカスタン全土を巻き込んだ戦いでキンリの姫巫女を守る護人として、また勇者シマオオカミとして、セリカスタンを実質支配していたセンドルク大統領を相手に戦わずして勝利します。そして平和になったセリカスタンを離れ、龍也は日本へと帰ります。
そこまでが前巻までのあらすじ。今巻は、そうしてセリカスタンを救ったことになった龍也が日本へと帰国し、1年後にリューカ姫に日本を見せてあげると言う約束を果たす為、再びセリカスタンを訪れたところから始まります。
驚かせようとして、誰にも何も連絡を告げずにセリカスタン入りをする龍也。だが折りしもセリカスタン内部では再び争いの火種が燻っていて、龍也の来訪はそれを燃え上げてしまいます。
再びセリカスタンで「軍師シマオオカミ」となることを求められる龍也。
叛乱を起こした部族の裏には中国の影がちらつき、大国の思惑と利権も絡み、セリカスタンは戦う必要のない戦いを余儀なくされていきます。龍也はこの戦争で、軍師シマオオカミとしてどう行動するのか…? と、いったところで。

全体的な流れとしては、半ば中国軍化してしまっている「ナガス民族解放戦線」が仕掛けてくる軍事行動を相手に、龍也がシマオオカミとして招かれているセリカスタン軍が対処し、合間合間に龍也が考えた対抗措置を取ったりする、という形がメインですかね。
テロリストを相手にキンリ族の護人であるネコマル率いる部隊がセリカスタン中で活躍したり、破壊工作員を相手にリューカ姫やシーデが大立ち回りをすることになったり、情報戦で龍也が叩き出した作戦が世界レベルで国の視線を集める事になったりと見所は多いです。
また、リューカ姫と龍也との関係もそれはもうどこの中学生日記かと思うくらいに甘酸っぱく時に誤解からすれ違ったりしつつすぐ仲直りして見せたりと、戦争をモチーフにし殺伐とした印象を受けがちな合間合間に清涼剤の如く挿入されます。
また前述したように基本的に戦争を扱っている話ながら、戦いを避けようとする龍也やキシトン大統領、リューカ姫やサラサたちにより、血生臭いシーンなどは殆どありません。主人公が銃を持って敵を相手にドンパチしないので、ある意味こういった題材の作品では珍しいですね。
固定概念で向かってくる敵に対して龍也の現代人らしい決まり事に縛られない意表をついた作戦が実にコミカルで、独特の雰囲気を作り上げていきます。
鷹見一幸先生は文章での表現が真摯というか、心に訴えかけるような文体で書かれますので、読んでいて気がつくと龍也やリューカ姫といった登場人物の心情に知らず知らずと同調してしまっている辺りが鷹見先生の妙技と言えるでしょうね。
総評して、主人公が英雄として祭り上げられ題材も戦争を扱った物ながら、主人公が所謂ファンタジー的な勇者として敵陣に飛び込んでいって全てを丸く治めてしまう、というありがちな英雄譚ではなく、現代的で柔軟な発想と意表をついた行動、そして人の心に訴えかける形の作戦で戦わずして勝利を収める、といったものが見られる作品だと思いましたね。
また、戦いにおける意味。実際に起きた場合、ひとつの戦乱にいかに多くの思惑が含まれるのか、というものの片鱗を見れた気がします。

次巻ではついにリューカ姫をはじめ、サラサ、シーデが龍也と共に日本に渡ることになるようです。
日本は秋葉原と舞台に珍道中を繰り広げるリューカ姫たちだが、東京を狙うテロリストと交錯する事になる。龍也たちはテロを止められるか…!?という内容だそうです。あとがきで予告されていました。(笑
当初、セリカスタンの『常識』に戸惑っていた達也。今度は日本の『常識』に、リューカ姫やサラサ、シーデがどう思うのか、どう戸惑うだろうか、と今から楽しみでなりません。(笑