リリアとトレイズⅤ(上)

リリアとトレイズⅤ 私の王子様(上)

キノの旅」で有名でしょう、時雨沢恵一先生の年1冊刊行シリーズであった「アリソン」シリーズの続編で、「アリソン」の登場人物たちの子供たちの話というシリーズです。
独特の世界である、西のベゼル・イルトア王国連合(略称スー・ベー・イル)と東のロクシアーヌク連邦(略称ロクシェ)に分かれた国が世界の全てという舞台で、東の上級学校に通う3年生の「リリアーヌ・アイカシア・コラソン・ウィッティングトン・シュルツ(略称リリア)」と、ロクシェ内部にあるイクストーヴァ王国の公式には隠された王子であり、リリアとは親を通じた友人で幼馴染である「トレイズ」の2人を中心に話は進んでいきます。
今巻は、出会いから始まる巻ですかね。
トレイズが20歳になるまでに自分で結婚相手を見つけていない場合結婚する相手である婚約者、「マティルダ王女」がまず冒頭でその存在を説明され、彼女がロクシェに公式訪問する旨が示されます。
トレイズはその訪問に婚約者兼案内人として同行し、その公式訪問の護衛指揮を取るのは「アリソンの現在の彼氏」、トラヴァス少佐。
続いて別のシーンで、リリアと母・アリソンがロルという都市を目的地に、リリアの春休みに旅行に出かけます。
普通の遊行となるはずだったリリアとアリソンの旅行だったが、彼女達の乗る鉄道にはマティルダ王女の命を狙うテロリストが同乗していてその作戦行動により、列車は止まってしまう。
列車が止まり乗客全員が難儀しているところに、貸しきり状態のマティルダ王女が乗る列車が到着します。トラヴァス少佐と乗客たちの交渉の末、テロリストの思惑通りに自身を含む止まった列車の乗客たちを乗せていく事に。
そこで顔を合わせるリリアとアリソンとトラヴァス、トレイズ。
偶然に驚き合う4人。その中でリリアはトレイズと一緒にいたマティルダを王女とは知らずに友人として仲良くなります。

そして起こる殺人事件。乗客の1人が毒殺され、緊張が走る列車内。

リリアたちはどうするのか。マティルダ王女はどうなるのか。テロリストのマティルダ王女を狙う方法は―――? と、いったところまでが上巻での展開です。
一応、この毒殺から起こる殺人事件は上巻で解決されていますが、糸を引いていたテロリストの姿はココではまだ出ていません。なので、来月発売の下巻にその辺りは託されています。

このシリーズに限らず、時雨沢恵一先生の作品は会話のテンポが読みやすいですね。
丁寧な文体でありながらキレの良い文章に、基本的に短い言葉の応酬が繰り返されて会話が構成されているので、ポンポンと軽い感覚で読んでいけるのが読みやすさの理由でもあるのでしょう。
かと思えば重要な言葉、シーンでは丁寧な文体でありながらもきっちりその意図するところを書ききるまで1つの文章として続けるため、「これは深い意味のある言葉だな」ということがわかります。
そういった読みやすさが、このシリーズの魅力のひとつであるのは間違いないでしょうね。

総評しましょう。
今巻は上巻ということで、まだ全てに決着がついていません。
テロリストの狙いはわかっていても、どうやってそれをやろうとしているのかは書かれていませんしそもそのテロリストの存在をトラヴァス少佐たちは疑ってはいても列車に同乗しているとは確信していませんし。
リリアとトレイズマティルダの3人の関係も、ダンスパーティの相手にトレイズを考えるも即座にトレイズの心情を理解して否定するくらいトレイズを理解しつつあるリリア、直球でリリアが好きだが実は王子と言う隠している事実に頭を悩ませているトレイズ、婿入りの日であるトレイズ20歳の日を待ち続けているマティルダ、と三者三様の互いに隠している背景をそれぞれ明かしていないので、その辺りの解決もどうなるのかわかりません。
なので、来月刊行の下巻でいったいどうなるのか。そういった所が期待をよせるところですかね。